2014年11月10日月曜日

「今をいろどる~現代日本画の世界」(2)・サテライト 長谷川喜久展

「今をいろどる~現代日本画の世界」展は、岐阜県美術館が所蔵する日本画の作品がおおよそ3分の2、寄託作品を含めた個人蔵の日本画が3分の1くらいで構成されています。つまり、この会場は、当館の日本画コレクションの質と量がいかなるものであるか、問われる場でもあるわけです。もちろん30年以上のコレクションの歩みをふまえて、自信をもってお見せできる内容として企画した展覧会なので、ぜひ会場を見て当館のコレクションの規模を実感していただきたいと思っております。



展示作品としては、岐南町出身の日本画家・長縄士郎さんの《店粧》(1952年作)が一番早い制作になります(写真の一番左側の作品)。この作品に描かれているのは、戦前から岐阜市の繁華街・柳ヶ瀬の中心部にあり、1945(昭和20)年の空襲で全焼し戦後に復興した、丸物(まるぶつ)百貨店の売り場です。長縄さんの若い頃の出発点であると同時に、高度経済成長期へ向かっての岐阜の目覚ましい復興を物語る、岐阜県の歴史的にも重要な作品です。会場はこの《店粧》から始まり、神戸智行さんら若手の画家による2014(平成26)年制作の新作まで、おおよそ時代の流れに沿いながら、作家ごとにまとまったコーナーを作りつつ展示をしています。それぞれの画家の略歴と作品の特徴は、作品の近くに配した解説パネルで簡略に触れています。

また、出品作品の中から20点を選んで短い解説を記した、A5サイズの鑑賞ガイドを作りました。この鑑賞ガイドは、展覧会鑑賞者のうち、ご希望の方に無料で配布しています。
















その他、会場のトピックをご紹介しましょう。



会場の半ばあたりで、土屋禮一さんの作品を8点まとめて展示しています(禮の正しい字は「ネ」に「豊」)。岐阜県養老町出身の土屋さんは、武蔵野美術大学で日本画を学び、現代日本画壇の中心的作家として活躍するとともに、日展副理事長として団体を率いる立場にもある、重鎮の一人です。
岐阜県美術館が所蔵する土屋さんの作品は、1960年代の若い頃から今年新たに収蔵した2012(平成24)年の作品まで約30点あるのですが、今回はチラシに掲載した《雲》(写真では一番左)や、鑑賞ガイドで紹介した《桜樹》(左から3番目)、《龍魚―阿》《龍魚―吽》(右側の2点)など、1990年代、2000年代の近作を中心に構成しました。特に近年の、墨と対話を楽しむように自由に心を遊ばせながら制作した水墨画からは、瑞龍寺本堂障壁画《蒼龍図》(1998年作)等から20年近くかけて追求してきた墨の表現の深まりが伝わってきます。

また、所蔵品展示室のうち、展示室2を「現代日本画の世界展 サテライト」会場として、長谷川喜久さんの作品15点による特集展示を同時開催しています。



「今をいろどる~現代日本画の世界」展の準備段階で、活躍中の作家の近作・新作を構成に加えようと考えた時に、長谷川さんは真っ先に依頼を検討した作家でした。
岐阜市出身の長谷川さんは、金沢美術工芸大学大学院で日本画を学び、現在も岐阜市に在住して、日展を中心に作品を発表しています。2009(平成21)年に当館で開催した「Artのメリーゴーランド」展に出品していただいた時は、会場のトップのコーナーで作品を紹介しました。
今回の特集展示のきっかけとなったのは2011(平成23)年の展覧会です。この年、長谷川さんは上海美術館で個展を開催。その帰朝記念展が、岐阜市の加藤栄三・東一記念美術館で開催されました。この帰朝記念展の印象が非常に鮮やかで、人物・風景・花鳥とさまざまな題材を現代的な感性で描いた作品の魅力に感じ入り、岐阜県美術館でもいつかまとまった形で展示したいと思っていました。その後、日本画の自主企画展を2014(平成26)年に実施することになったため、何人かの作家にコンタクトをとるに際し、この機会をいかして、同じ会期でサテライト展示として長谷川さんの作品を紹介しようと考えました。館内で方針を相談したところ「展覧会として見てみたい」という意見が多く、それらの声に背中を押してもらって、協力をお願いして快諾をいただき、この特集展示が実現できました。
会場が変わると、作品の見え方、印象も変わります。サテライト展示では、天井が高く、部屋全体が明るめの展示室2を会場とすることが決まっていました。したがって小品よりも大作を中心にして、近作に焦点を絞り、1997(平成9)年の《―DOME―(あらかじめ失われた鳥達の宮殿)》から、墨彩画の新作《青月図屏風》まで15点を選びました。ゆったりとした空間で、特に色彩の美しさを意識して、一点一点を際立たせて見せよう、と展示を試みています。

このような小規模の個展形式で現代の中堅作家を紹介するのは、岐阜県美術館にとっても初めての試みです。美術館の重要な役割の一つに、同時代の美術を、効果的な時期・場所・構成によって紹介することがあると思います。昨今の社会的・経済的事情の中で大規模企画展の実現が難しくなっている現在、個別の展示室の規模で行う特集展示は、フットワークが軽く、さまざまな観点の企画を実施できるものと考えます。同時代美術の紹介をこのような特集展示で行う試みは、今後も機会があれば継続していきたいと思っています。(青山)

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